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東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を巡り、日本産水産物の輸入停止措置に踏み切ったロシアの漁船が、福島第1原発から50キロ圏の日本近海で操業していることが1月12日、漁船に搭載された船舶自動識別装置(AIS)のデータ解析から判明した。中国と足並みをそろえる形で輸入の全面停止を発表してから16日で3カ月。禁輸措置を講じながら日本漁船と同じ海域で操業する矛盾した状況が明らかになり、専門家は「ダブルスタンダード(二重基準)の対応だ」と指摘している。
サバやイワシを漁獲
AISを搭載した船舶の位置や操業状況を確認できる「グローバル・フィッシング・ウオッチ(GFW)」で調べたところ、昨年12月中旬以降、水産資源が豊富な北方領土周辺の海域で操業していたロシアの大型トロール漁船3隻(いずれも7千トン超)が太平洋側を南下、岩手県から宮城県にかけての沖合で操業しているのが確認された。AISは条約により、海外の港を行き来する全ての旅客船や300総トン以上の全船舶に搭載が義務付けられている。
2隻は12月13~14日に福島第1原発から32~41キロの海域まで接近していたことも判明。サバやイワシを漁獲しているとみられる。海上保安庁関係者によると、海保も大型無人航空機などでこうした動きを捕捉。水産庁と情報を共有している。
津軽海峡を通過
産経新聞がGFWで解析したところ、2隻はロシア・カムチャツカ地方の中心都市、ペトロパブロフスクカムチャツキーを昨年9月29日と11月3日に出港。1隻は12月3日に韓国の釜山港を出港し、日本海側から津軽海峡を抜け、北方領土周辺の海域に到達していた。
日本とロシアは2022年12月、双方の漁船が相手国の排他的経済水域(EEZ)で行う「地先沖合漁業」を巡り、23年の操業条件を決める交渉が妥結。操業の解禁は昨年11月15日だった。
「中国に迎合」
処理水放出開始後、中国の漁船も福島や北海道沖の北太平洋でサバなどの漁を続けている。同じ海域で漁をする日本漁船の「日本産」は禁輸しつつ、自国産は国内で流通させており、矛盾した状況が浮き彫りとなった。
東海大の山田吉彦教授(海洋政策)は「ロシアの禁輸措置は中国に迎合した政治的圧力以外の何物でもない」と指摘。元第3管区海上保安本部長の遠山純司氏は「自国の漁業の実態に目をつぶり処理水放出のみ非難しているのは、国際的なバランスを欠いた恣意的な主張だ」と話している。
筆者:大竹直樹(産経新聞)、西山諒(データアナリスト)
■船舶自動識別装置(AIS)
船舶の種類や位置、速力など船舶の安全に関する情報を自動的に送受信し、船同士や周囲と情報交換できるシステム。沿岸の海域では乗揚げの恐れのある船舶に注意喚起でき、海難事故の未然防止が図れる。